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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)11657号 判決

原告 織田嘉一郎

右訴訟代理人弁護士 堀場正直

同 堀場直道

被告 株式会社丸新プラスチック

右代表者代表取締役 新名寛

右訴訟代理人弁護士 末政憲一

主文

当裁判所が昭和四二年手(ワ)第四六六九号約束手形金請求事件につき昭和四二年一〇月二七日言渡した手形判決を認可する。

本件異議申立後の訴訟費用は被告の負担とする。

事実

当事者双方の申立、事実上および法律上の陳述、証拠の提出援用、認否は、原告訴訟代理人において後記(二)のとおり述べ≪証拠関係省略≫被告訴訟代理人において後記(一)のとおり述べ≪証拠関係省略≫たほか、主文第一項掲記の手形判決の事実摘示のとおりであるから、ここにそれを引用する。

((一) 被告訴訟代理人の陳述)

(1)  本件各手形の被裏書人および裏書日の各欄が白地であるから、本件各手形は手形要件を欠く旨の主張、ならびに本件1の手形の第一裏書欄が不備である旨の主張はいずれも撤回する。

(2)  本件2の手形の第一裏書人信州化学工業株式会社から藤沢富治に対する裏書譲渡は会社と取締役との間の取引であって、右について会社の取締役会の承認がなかった事実は原告が手形を取得するに際し知悉していた。

(3)  右藤沢富治は右2の手形を原告から割引を受け、取得した割引金のうち約二〇万円を自己のために費消している。この点から見れば、藤沢は単に前記会社の債務を保証する趣旨で手形に裏書をしたものではなく、会社と藤沢との間には実質的な権利の移転があったというべきである。仮に藤沢の裏書が保証の趣旨でなされたものであるとしても、同人は裏書によって割引金の一部を取得しているのであるから、その保証は純粋に会社のためのみを目的としてなされたものとはいえず、いずれにしても会社と藤沢との間の裏書譲渡については商法第二六五条の適用があるといわねばならない。

((二) 原告訴訟代理人の陳述)

(1)  本件2の手形の信州化学工業株式会社から藤沢富治に対する裏書譲渡につき右会社の取締役会の承認がなかった事実は認める。

(2)  しかし、藤沢は右会社の債務を保証する趣旨で右手形を一旦自己が譲受けた上これに第二裏書をしたものである。したがって、右の会社取締役間の取引によって会社の利益は何ら害されてはいないのであるから、このような場合には商法第二六五条の適用はないと解すべきである。

理由

原告の請求原因として主張する事実は当事者間に争いがない。

次に、本件2の手形の第二裏書人である訴外藤沢富治は第一裏書人である訴外信州化学工業株式会社の代表取締役であることおよび右会社から藤沢への手形の裏書譲渡について右会社の取締役会の承認がないことは当事者間に争いがない。被告は、右の事実に基づいて、右会社から藤沢に対する右手形の裏書譲渡は商法第二六五条により無効であって藤沢は手形上の権利を取得していない旨を主張する。しかし、≪証拠省略≫によれば、藤沢は右訴外会社の代表取締役として訴外会社のために原告から右手形の割引を受けるにあたり、原告の要求により訴外会社の原告に対する手形上の債務を個人保証する趣旨で右手形に第二裏書をしたものであって、原告から取得した割引金はその全額を一旦訴外会社の営業資金に組入れたことが認められ、この認定を動かすに足りる証拠はない。そして、このように会社の取締役が会社の手形債務を保証する趣旨で会社裏書の手形に更に個人として裏書をした場合においては、取締役個人の利益において会社に損失を及ぼすようなおそれは全くないのであるから、会社の保護のために取締役会社間の取引を規制する商法第二六五条の規定は適用の余地がないと解するのが相当である。したがって、前記訴外会社と藤沢との間の本件2の手形の裏書譲渡行為は取締役会の承認がないからといって無効のものではなく、その無効であることを前提とする被告の抗弁は理由がない。

更に、被告は、本件各手形は右藤沢富治らが被告から詐取したものであり、原告は右の事情を知りながら本件各手形を取得したものである旨を主張する。そして、≪証拠省略≫によれば、本件各手形は藤沢がその代表する前記訴外会社のために金融を得る目的で、被告に要請して振出してもらった融通手形であること、その際藤沢は被告に対し担保として土地を提供する旨を申出たが、その間の交渉をめぐって、被告は藤沢が虚構の事実を申向けて被告を欺罔し被告から本件各手形を含めて一一通、合計金四二九万円余の約束手形を詐取したものであるとして、藤沢を告訴したことが認められるけれども、原告が右の事情を知りながら本件各手形を取得したとの点については、本件にあらわれたすべての証拠によっても未だこれを認めるに足りない。

そうすると、被告の右抗弁もまた理由がないから、結局、原告の本訴請求はすべて正当としてこれを認容しなければならない。よって、この判断に符合する本件手形判決はこれを認可すべきであるから、民事訴訟法第四五八条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 秦不二雄)

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